LIRY VOL.19 SPECIAL ISSUE “What’s Fashion?”

#6 Fashion Creation

ファッションを創る・生む理由人とは? デザイナーに聞く、ファッションプロダクト。

 

 

chapter 6

MAISON JUNYA KUMAMARU. : Junya Kumamaru

立体裁断との出逢い 人体があり、重力があり、生地がある

熊丸淳也 さん

<メゾンジュンヤクママル>デザイナー 

 

はじめまして〈メゾンジュンヤクママル〉デザイナーの熊丸淳也です。〈メゾンジュンヤクママル〉は職業や生活環境に合わせた機能美とスタイルを、信頼できる職人やパートナー企業と一緒に作り上げている、メンズウエアを主としたオートクチュールブランドです。〈メゾンジュンヤクママル〉ではデザインや素材はもちろん、着用時に背筋が伸びて目線が上がるような精神的なエレガンスをも表現出来る様、心掛けてます。現在は東京を拠点にアトリエでのオーダーメイドを中心にアーティストや職人等の多様化する職種に合わせて「機能美」と「上品さ」を追求したオンリーワンのオーダーメイドデザインを行っております。

 

ー洋服を作る・作りたいというようになったご自身のバックボーンは、一体どこから始まったのでしょうか?   

洋服を作るきっかけになったのは専門学校で立体裁断の魅力と服作りの楽しさを教えていただいた師との出会い。人体があり、重力があり、生地がある。その中で自然に美しいラインを見出す事はとても良い魅力的でした。教えられたのはとにかく「基本を大事に」「眼を養う」「自然に(ナチュール)」とこの3つのことはとても印象的で今でも持ち続けている大事なことです。どの時代でもとにかく洋服をたくさん作り基本を知り、そして繰り返すこのことの重要性は今でも変わりません。そして眼を養う、美しい物や景色などたくさん観て、体感し感じるその行為が美しいものを作りだす源、とにかくデザイナー(作り手)は様々な事に興味を持ち、体験したり肌で感じる事がなによりも重要です。3番目の自然に(ナチュール)とは服作りの際に重力と向き合うこと、人体と布と重力、自然に逆らわずに出来る美しいラインを見出すためにはこの3点を意識しています。その後、日本でやれるだけ立体裁断を追求し本場のパリの技術を体験して習得するためエコール・ドゥ・ラ・シャンブル・サンディカル・ドゥ・ラ・クチュール・パリジェンヌ(Ecole de la Chambre Syndicale de la Couture Parisienne)。1927年、フランスのオートクチュール使用者団体。通称「サンディカ」により、スティリズム(デザイン)とモデリズム(パターン)の高等教育機関として創立された学校に編入しました。在学中はオートクチュールのメゾン、プレタポルテのブランドで研修や仕事をしパリのリアルな業界の仕組みや技術を経験、卒業後はパリで出会った渡邊氏とレディースのプレタポルテブランド〈ドルカス パリ〉を設立しプレタコレクションを発表。その後、大手インポートブランドに入社、クリエイティブディレクターのアシスタントとしてミラノコレクション、ライセンス業務など日本、香港、イタリアで経験しキャリアを積みました。 

 

ーパリでの、〈ドルカスパリ〉とは、どういった活動内容だったのでしょうか?

DORCAS PARISは現地で出会ったデザイナーの渡邊 洋平氏と作ったレディースのプレタポルテのブランドです。旅(ドルカスという女神の名前、旅をしながら各地で洋服を作り続けていた由来のある神話の女性)がブランドコンセプトでもあり、毎回のコレクションはフランス国内やヨーロッパを旅して建築や文化などからインスピレーションを得たものを表現してきました。機能面では軽くてシワになりにくく旅先でも気軽にドレスアップできるエレガントな服。洋服作りにおいては2人共にパリオートクチュール組合が経営する学校を卒業し、プレタポルテのブランドではありますがクチュール(仕立て服/手仕事/伝統技術)の要素も多く採り入れたブランドクリエイションを行いました。服素材選びから製造、ディレクション、営業、ショー、インスタレーションの開催に向けたプランニング(ロケーション探し、企画交渉,モデルオーディションなど基本的には全ての業務の内側)クリエイション、服づくり、企画などと外側(プロモーション/ショープランニング/シューティング/モデルオーディション/外部とのコミニケーションなど)の2つに分け役割を分担し活動しました。海外での活動という点でやはり言葉や文化の違いにはとても苦労しましたが福岡で働いた〈ローラーズハイ〉での経験がとても役に立ちました。洋服をクリエイションする事とは、物作りの姿勢やコミニケーションの方法や動き方等、洋服作りをビジネスとして行う為の基本的な事を叩き込まれたのでその事が海外でも通用して、ほんと大事な事を経験できていた事に改めて海外で気づきました。この事は今も自分の基本になっています。当時20代半ばでスタッフも皆若く毎日が挑戦の日々でしたが本場の空気の中、たくさんの才能と触れ、刺激と意欲に満ちた日々でした。その後数シーズンコレクションを発表し続けて自身のブランドがパリファッションウィークの公式スケジュールに掲載されたり、フランスのセレクトショップで商品の取り扱いが決まるなど、一歩ずつでしたが当時の夢がひとつずつ形になりました。

 

ー『オートクチュール』、『プレタポルテ』を経験されて、その二者の違いとは、なんでしょうか?

自分が意識しているこのふたつの違いはお客様との距離感、手間の違いです。商品化した物を大量生産し販売する既製服に対して『オートクチュール』は注文より縫製される仕立服。距離感を意識するのは不特定多数の顔の見えないお客様に提供する事より一人一人の個性に対してデザイナーとして向き合っていきたいと思っているからです。そして手間に関してはひとつの洋服に掛ける時間。『プレタポルテ』は大量生産において一定のクオリティを保つ為サイズ指定や製造過程においても綺麗に早く縫える為の型紙作りや縫製工程、指示など効率化が重視されます。一方で『オートクチュール』においても技術的な効率化など効率化が重視される部分もありますが仕立て服ですのでその都度サイズやデザインに調整をしたり、手縫や手作業のパーツや刺しゅうを用いるなどプレタポルテの何倍もの時間を用する工程がたくさんあります。サイズも個々それぞれの体型に向き合い、デザインを現実化して行きますので仮縫いと呼ばれる試着サンプルでなんども理想のサイズ感に合わせて行きます。またフランスでは『プレタポルテ』(高級既製服)のデザイナーは【スティリスト】と呼ばれ、『オートクチュール』は【クチュリエ】と呼ばれハッキリと違いがあります。【スティリスト】は服の素材選びからデザイン決定、コレクションの開催までの全ての過程にわたって指示、決定などする人の事を指し、ファッションデザイナーと同じような立場の人です。【クチュリエ】はフランス語で裁断師の事を指し、主にパリオートクチュールの主任デザイナーの総称として用います。『オートクチュール協会』の条件に従ってメゾンを設立し、メゾンのデザイン責任者としてデザインして、裁断、縫製、営業宣伝活動にいたるまですべてを統括する役です。  

 

 

ージュンヤさんのクリエイションは、服を作る工程が非常に細かいと僕自身感じています。なので、読者にその細かい工程を説明できる範囲で教えて頂きたいです。  

服作りにおいては大量生産する為の一つの洋服を分担してつくるライン生産ではなく一人の職人がすべての行程を縫い上げる丸縫いという方法で仕立てております。丸縫いは一般的にはオーダースーツなど仕立て服にみられる方法で現代の多様化した職業や生活環境に対して個々に洋服を提案する上で必要な方法だと思っているからです。〈メゾンジュンヤクママル〉ではエレガントを提唱してます。エレガントとは「素材や製法、スタイルによる洋服」と「着用される方の精神性」の2つが合わさることではじめて完成すると考えてます。ライフスタイルや職種等それぞれの良さやこだわり等あらためて見つめて頂きながらその「誇り」を洋服で表現してます。打合せを重ね、洋服ができあがる頃には目線があがりもせず背筋が伸びるような、内面的にも外面的にも「誇り高き気品」を見にまとって頂けるスタイルを真のエレガントと考え提唱してます。このように素材選び、デザイン提案は勿論ですがお客様の職業やライフスタイルによっての美しい所作やイメージ、使い易さを自然に引き出して頂けるデザインを意識しています。

 

ー最後に、どのデザイナーさんにも伺ってるのですが、「服を作る」ということを、ビジネスとして昇華していくという事って、作り手としてどのように感じていますか?そもそも、好きなもの、美しいものを第三者に提案し、それが誰かの人生に寄り添うっていうことをビジネスとして成立させるって、稀な事だと思っています。稀が、どのように成立、継続してるのでしょうか?

衣食住と人間の生活の基本的な要因の一つ衣服。服を作ると言うことにおいては自己満足で好きな物、美しいものを創りたい着てもらいたいという思いではなく、人々に生活の中で着てもらってこそ″服を作る″意味があるのだと自分は思っています。そしてその事をビジネスとして昇華していく事は人間の根本的に満たす欲求は変わらずとも提案方法やアプローチの仕方は時代ごとに変わります。その為には過去を知り、現在を見渡して、イマジネーションを持って提案する事。デザイン=問題解決だと考えていますのでデザイナーとして必要な知識や経験、そして美しいものを見極める眼を養う事など継続していくには、日々好奇心をもって物事を考え、気になるものなど実際に観て体験し肌で感じ取って″何故″を考えて変えていく、。作り出し提案する立場にあるデザイナーにとってはたくさんのプロフェッショナルの方々との関わり合いの中、その想いをのせて提案していけるという事を責任を持って取り組む事が継続していく為には必要なことだと思います。

 

*熊丸淳也さん
<メゾンジュンヤクママル>デザイナー
1980年福岡生まれ、東京在住。福岡の服飾専門学校を卒業後、ドレスブランドを設立し、コレクションを発表すると共に、様々なアーティストへの衣装提供を行う。2001年(株)ローラーズハイのオリジナルブランド<ヒッピネス>の企画、生産管理を担当後、2004年渡仏。2005年パリクチュール組合学校・サンディカに編入、卒業後デザイナー渡邊氏と「Dorcas」を設立しパリでウィメンズのプレタポルテコレクションを発表。2008年、東京に拠点を移し大手アパレルブランドにて勤務後、現在は2010年に設立したオートクチュールを中心としたブランド<メゾンジュンヤクママル>のディレクター兼デザイナーとして服作りの追究を続ける。

web : junyakumamaru.com
Instagram : @maisonjunyakumamaru_official

interviewer : Stylist Keisuke Ueno

 

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