LIRY vol.16 Special Issue “alcohol” #2 Alcohol Psychology 

九州大学高等研究院及び大学院芸術工学研究院教授 妹尾武治

 

THEME  [ alcohol ]

 

うまいお酒の面白い心理効果!

 

酔うほどに美しく!

 

 お酒をみんなで飲んでいると楽しい。特に、男女でお酒を交えていろいろなことを語り合うのはとても楽しいものである。お酒を交えることで、本音が出てきやすくなったりもする。お酒は会話の潤滑油で、人類がこれまでに行った発明の中でもトップクラスに優れたモノのひとつであると思う。お酒を飲むと、異性がより魅力的に見えたという経験はないだろうか?普段それほど魅力的に思っていなかった異性が急にグッと魅力的に見えたり、着ている服のオシャレさがいつも以上に感じられるようなことがあるだろう。 飲酒時に、異性の顔の魅力度評定がどのように変わるのかについて、被験者を80名取って確かめた実験論文がある。2003年に『アディクション』(日本語にすれば、中毒とか依存といった意味)という学術誌に載った論文である。著者はイギリスの名門、グラスゴー大学のバリー•ジョーンズらであった。

 

118名の男女の顔がランダムに、パソコンの画面に提示され、被験者はその顔の魅力度を1〜7点で付けるという課題を繰り返し行った。被験者には、シラフの群40人と、アルコールを摂取している群40人とを用いた。被験者は18~26歳の恋愛真っ盛りの世代を用いた。被験者の酔いの程度、つまり、アルコールの摂取量は6段階で設定してあり、自己報告制であった。実験者は大学内にあるバーで、酔っ払っている人を見つけてきて、被験者になることをその場でお願いしたのだ。彼らは、バーですでに飲んでいたところを、「被験者をしてほしい」と頼まれたわけなので、ほろ酔いの人もいれば、かなり酔っぱらっている人もいた。被験者をしても良いと答えてくれた人に、そのバーでどの程度飲んだのか?について、自己申告で答えてもらった。例えば、「ビール3杯飲んだ」とか「ワインを2杯飲んだ」とか答えてもらい、それに基づいて、アルコールの摂取量をグラム単位で算出した。そして、そのアルコール摂取量を6段階でレベル分けした。具体的には、アルコール摂取量が7・9グラム増えるたびに、ひとつ段階を上げた。これは、ビールのハーフパイントに相当する(1リットルが、およそ2パイントに相当する)。6段階中の6と答えた人は、ビールを3パイント以上飲んでいる状態に相当した。

 

 実験では提示される顔の魅力度を7点満点で評価した。その結果、アルコールを摂取している時に、パソコンの顔画像の性別を問わず、魅力度の評定値全般が大きく上がった。つまり、酔っていると男でも女でもより魅力的に見えてしまうのである。さらに面白いことに、男性の評定者では女性顔の魅力度が激しく上がり、女性の評定者では男性顔の魅力度の評定値が大きく上がった。すなわち酔うと、魅力度の評定が全般的に上がるのだが、特に異性の魅力度が大きく上がるという結果になったのである。 実際にどれくらい魅力度の評定値が上がったかを示そう。女性が男性の顔を評価した場合には、シラフだと7点満点で3・3点だったものが、酔っぱらっている時は4・0点になる。男性が女性の顔を評価した場合、シラフだと3・5点程度だったものが、酔っぱらうと4・1点にも跳ね上がるのである。たったそれだけ?と思われた方もいるかもしれない。しかし、40名の平均値で同じ顔の評定値に0・5点以上も違いが生じるというのは、心理学の専門家からすると驚愕の変化なのである。統計的には100回やって5回以下しか起こらないくらいの珍しいことが起きているのである。割合を使って表現すれば、魅力度の得点が、飲酒によって、2割弱も上がるのである。120%増しと言えば、いかにお酒の効果が強いか理解してもらえるだろうか?

 

さらに、統制のために行った別の実験では、人の顔ではなく、腕時計の画像を提示して、腕時計の見た目の魅力度評定を行った。腕時計の魅力については、飲酒の効果は見られなかった。魅力度の評価が全面的に上がるのであれば、腕時計の魅力度も上がってしかるべきだが、そうはならなかったのである。つまり、飲酒の効果は顔の魅力度に特化した効果であると言えるのである。この結果を鑑みて、合コンについて考えてみる。合コンは、普通お酒を交えて行うものだという認識を私は持っているが、これは実に理にかなった行為であると言える。自分も相手もどんどん酔ってしまえば、自分も相手もどんどん魅力的に見えてくるのである。それでは、なぜお酒を飲むと異性が魅力的に見えるのだろうか? これにはいくつかの理由が考えられるだろう。気分が快活、開放的になり、その原因を相手の魅力に求めるため、という仮説がまずあげられる。お酒を飲むと気分が良くなる。気分が良いのは、いま目の前にいる相手が魅力的だからである、と脳が自動的に思い込んでしまう。そのために魅力度が上昇すると考えられるのである。専門用語では、これを誤帰属と呼ぶ。お酒が原因で気分が良いのに、原因を別のもの、つまり対面している異性の魅力に間違って帰属させてしまうということだ。 もうひとつの可能性として「お酒によって、抑圧が取れる」という仮説も考えられる。潜在的に人は相手を高く評価したいと思っていて、その欲求がお酒によって解放されるという可能性である。いずれにしても、お酒を飲むと異性の魅力が上がって見えるのは、間違いない科学的な事実であると言えそうである。もちろん、仕組みについては、今後さらなる研究が必要になるだろう。

 

お酒は凄い。同席している相手にお酒を飲ませることができれば、自分の魅力度を上げることができるのである。男性が女性にお酒を飲ませたがるのはそういったメカニズムを無意識のうちに知っているからなのかもしれない。京都のお座敷遊びでも、男性がお座敷遊びで勝つと舞妓さんにお酒を飲ませる事ができる。これも、そういった人間の心理、知覚に基づいたシステムなのかもしれない。

Art Work “Drunk” 
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うまい酒が高いのか? 高い酒がうまいのか?

 

もう一つアルコールにまつわる心理実験を紹介したい。高い酒はやはりうまいらしいという実験だ。プラスマンらによる2008年の研究が大変おもしろい。中身が全く同じワインに、かたや10$(1000円程度)、かたや90$(9000円程度)の値札をつけて実験参加者に飲ませた。このとき脳の報酬系と呼ばれる、喜びに関係する場所の(medial orbitofrontal cortex メディアルオービトフロンタルコーテックスという脳部位)活動量を計測した。その結果、90$で飲ませた時、つまり、高いお酒だと思って飲んでいる時の方が、報酬系の脳部位の活動量が大きくなったのである。安酒だと思っている時に比べ、高級なワインだと思っている時は、脳の活動の程度が、2倍から5倍に及んだ。さらに、高いお酒だと思って飲んでいる時の方が、脳の活動時間の長さも長くなったのである。同じ酒でも、値札が高くなっていれば、実際に脳が受け取る報酬が大きくなることが実験で示されたのだ。高い酒は高いという事実それだけで、うまく感じるのである。美味しいお酒を飲むには、酒のラベルの情報をポジティブに受け取って、少しでもいい酒だと思って飲むと、より美味くなるはずだ。是非とも、この知識活用して欲しい。

 

お酒の不思議な心理について、二つ研究を紹介させてもらったが、皆さんも是非お酒の良い効果を巧みに利用して、より魅力的で、楽しく、美味しい時間を演出してもらいたい。 お酒でより良い人生を!

 


senoo-01 妹尾武治・せのおたけはる

九州大学高等研究院及び大学院芸術工学研究院教授。オーストラリア、ウーロンゴン大学客員研究員。東京大学大学院人文社会系研究科(心理学研究室)修了。心理学博士。専門は知覚心理学だが、これまで心理学全般について研究及び授業を行ってきた。現在、自分が乗っている電車が止まっているのにもかかわらず、反対方向の電車が動き出すと自分も動いてるように感じる現象(ベクション)を主な研究テーマとしている。電通九州等との共同研究を多数手がける。筋金入りのプロレスマニア。著者に『脳がシビれる心理学』(実業之日本社)、『おどろきの心理学』(光文社新書)、『脳は、なぜあなたをだますのか:知覚心理学入門』(ちくま新書)がある。

 


 

Photo / Daisuke Shouda (KRK)
Styling / Keisuke Ueno (REFRAIN226)
Hair & MAKE / Tomoko Kido (CO5)
Model / Yumi Nakata (elegant promotion)

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